奈良県建築士会では、奈良県他の後援を頂き、奈良県の恵まれた伝統や自然環境と調和し、すみよいまちの創造と景観形成に寄与した建物やまちなみなどを「奈良県景観調和デザイン賞」として表彰してきました。第12回を数える今回、下記のとおり受賞作品が決定しました。
施主:学校法人 天理大学
設計:株式会社 福本設計
施工:株式会社 竹中工務店
施主:上田侃男
設計:玉川建築設計室
施工:松田工務店
施主:宇陀市
基本設計:株式会社 設計組織アモルフ 竹山聖
設計監理:小林建築事務所
施工:株式会社 伯龍組
施主:宇陀市
設計:Dani Karavan 株式会社 空間造形コンサルタント
施工:株式会社 淺沼組
「国家の品格」の中で藤原正彦氏は、ノーベル賞の受賞者やそれに匹敵する人達の住んでいた街は皆、美しい町であり、優れた人材を生み出すためには、街が美しくなければならないと言っています。2004年6月には、「景観法」が成立し、また、安部内閣総理大臣も「美しい日本」を提唱しています。そういう意味で、この「奈良県景観調和デザイン賞」の意味は大きい。この賞も第12回を数え、益々深みを増してきたように思える。それは、建築士会会長賞に輝いた上田邸の保存の重要性が審査委員一同の賛同を得られたことである。この種の審査では、ともすれば斬新な現代建築が選ばれがちな中で、保存建築が会長賞を勝ち得たことは、奈良という歴史的風土の特殊な都市にとって大変意義深く、喜ばしいことである。
惜しくも選にもれたもので、奈良地方裁判所はかつての重苦しさがなくガラス張りで明るい。大きく張り出した庇と縦長のサッシ割りは規則正しく「真体的」イメージで好感が持てた。又、東吉野住居は、山裾に建つ透明な総ガラス張り住宅で、自然の中に消える建築として面白い。石景庵は大宇陀町の伝統的な古い美しい町並みに形態をそろえて造られていたのは好感がもてたが素木のままで白っぽく周辺の街色から浮いて見え違和感を与えている、古色としてほしかった。青垣生涯学習センターは、天理大学総合体育館と同じく大きな建物を小さく、低くしようという努力は見え好感が持てたが、デザイン的にも材料の使い方にもやや退屈であった。
知事賞となった天理大学総合体育館の立地環境は、周辺に歴史的建造物もなく、新興都市的なところであり、これから発展していくであろうと考えられる、この地のシンボル的建築で、形態的には清潔、端正で大きな建築物を小さく変化をつけ面白く分節化し威圧感のない形態が良い。素材もコンクリート打放しやガルバリュウム等、斬新な使い分けが良く、新たな創出的現代都市の指導的役割を果たす事と思われる。
上田邸については総評でもふれたが、保存の意義は、その時代時代、国々の政治、経済、美学、ニーズ、技術、材料等あらゆるものを反映していることであり、それが、面白いのである。又、日本の奈良の宝物でもあり、相続税についてもこれら住宅等の税率を緩和してほしい。保存を通して、その建築のもつ美学、精神性、手法等を学び、これを現代建築に用い、奈良的建築をアピールするべきである。この住宅は、特に正面のデザインがモダンかつ現代的で美しく、インテリアも力強く深い。それは谷崎 潤一郎の言う陰影礼賛の精神性の高いデザインである。
やまなみドームは周辺の山なみの形にあわせ、違和感のないようドーム型としたのが好感をもてた、又、サッシを木格子として、強さと優しさをもたせている。
ペルーにあるナスカの地上絵は、あの平原に絵が描かれていてこそ面白いのである。自然そのままでは面白さがない、その意味で「芸術の森」は自然の森に、彫刻が創られてこそ自然が活かされて面白いのである。それも、ダニ・カラヴアンの手によるものである。
審査委員長 出江 寛