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奈良県景観調和デザイン賞

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教育事業委員会デザイン賞部会報告

奈良県建築士会では奈良県他の後援を頂き、奈良県の恵まれた伝統や自然環境と調和し、すみよいまちの創造と景観形成に寄与した建物やまちなみなどを「奈良県景観調和デザイン賞」として表彰してきました。第16回目を数える今回、下記のとおり受賞作品が決定しました。

第16回奈良県景観調和デザイン賞

知事賞

今井町の家

所在地:橿原市今井町
施主:田原勝則 田原幸子
設計者:横関正人+横関万貴子/一級建築士事務所有限会社NEO GEO
施工者:株式会社岩鶴工務店

会長賞

終の住処 –奈良帝塚山の家-

所在地:奈良市帝塚山
施主:藤岡 茂
設計者:井上久実設計室
施工者:西友建設株式会社

奨励賞

斑鳩の家

所在地:生駒郡斑鳩町
施主:廣瀬智也
設計者:中山建築設計事務所
施工者:杢工舎

奨励賞

十津川村復興公営住宅

所在地:吉野郡十津川村大字谷瀬地内・大字猿谷地内
施主:十津川村
設計者:株式会社アルセッド建築研究所
施工者:泉谷工務店 亀本工務店 田垣建築 辻建築 三共工務店 西建築 柳瀬工務店

審査委員長賞

御所の古民家(減築・改修)

所在地:御所市
施主:個人
設計者:株式会社貴志環境企画室
施工者:唐内工務店

第16回奈良県景観調和デザイン賞審査評

今回も各分野から多くの応募があり、まず第1次審査として写真と書類による審査を行ったが、前回までと比べて公共部門のレベルが低かったことがあげられる。2次の現地審査に残ったのは2作品のみであり、いずれも現地審査での評価も低かった。一般建築も2作品で戸建て住宅が大半であった。私たちを取りまく空間の多くは公共建築と一般建築により成り立っているから、こんなことでは先が思いやられる。このことは公共建築等の設計者選定の制度に問題があることもその一因となっているのではないか。結果的には受賞作品は全て戸建て住宅(群)であったことはやや残念である。
本賞は応募された作品と周辺環境との関係性を問いつつ審査するものと考えているが、新築、改修に関わらずその建築(構築物)の質の高いことが必要条件であろう。いくら規制通りに勾配屋根で瓦葺きであっても美しくなければ意味がない。奈良はいうまでもなく古社寺や遺跡と、緑深い山々に囲まれた自然環境と、それらに抱かれた町が程良く点在しているという一つの秩序があるのではないかと思う。また、歴史的建築は必ずある秩序の下に建てられているし、古い集落もある秩序に基づいて成り立っているといえる。けれども現代都市はそういった秩序が欠落しているのではないだろうか。
このように考えてくると、それぞれの地域にはその地特有の秩序があるはずであり、その秩序を乱さないような建築(構築物)をつくることが大切なのであろう。形にとらわれる必要はない、その地域の秩序を乱さない配慮が必要なのである。

知事賞「今井町の家」

重要伝建地区にある約200年前の町屋の改修である。通りに面した部分はそのままで、内部空間は従来からの町屋の空間的特徴を適度に守りながら、現代のライフスタイルに適合させモダンさも兼ね備えている。また耐震補強も格子壁を適切に配置して室内の閉塞感をなくしており、内部空間全体のデザインにも破綻がない。このことは単にファサードを凍結保存するのではなく、時代の要求により内部を現代の使用に耐えるよう改修し、生活を続けながら町並みを守るという生きた保存としての優れた例である。

会長賞「終の住処」

40年前に開発された地域が住民の高齢化と共に建て替えの進むなかで、一人暮らしの高齢者のために建て替えた住まいである。町に対して閉鎖的ではなく、かといってオープンすぎるのもよくない。適度なプライバシーがありながら町の人たちとも緩やかなつながりを保てるよう内外空間が巧みに構成されている。庭の南側にある木立は居間からの視線を和らげ、カーポートから親しい人なら入って来られるような配慮もある。また片流れ屋根も周辺の環境の中で違和感なく存在し、現代の住まいとしての主張もある秀作である。

奨励賞「斑鳩の家」

なだらかな傾斜のある広々とした見晴らしの良い地域に建っており、前二者とは全く違った周辺環境で、遠くから見えてくる方形の屋根と壁の構成はシンプルで印象的である。軒の出が深く壁のプロポーションも良い。近づくと家の周りには隣接した家がないので四面の壁がすべて見え、各面の窓の開け方や樋の位置、生活上必要な裏廻りの処理等が気になってくる。けれども新築住宅として斑鳩という地域にすっくと建っていて、この地域の秩序を乱していないところが優れている。

奨励賞「十津川村復興公営住宅」

3年前の台風被災地に建てられた木造平屋建ての公営住宅群である。設計をするにあたり、住民に対するヒアリングや地元の大工さんとのワークショップ、民家調査等を経てできたものであり、「十津川の住まいづくりの25の手法」を考案し、それに従って建設されたという。このような努力が実ってこそできたものとして評価できる。既存の地形を壊さず里道や樹木も保全できているので、時間が経って現在の平坦な土の部分が馴じんでくればその良さが出てくるだろう。

審査委員長賞「御所の古民家」

今世紀は価値のある古民家や町屋等を保存することの方が、新しい建築を新築することより価値があることを、市民すべてが認識しなければならない時代であると思う。この古民家はかつて増築された部分を解体して木塀を新設しただけであるが、既存のクスノキの大木や立派な母屋が保存され、隣接する寺院や近隣の民家と一体になって美しい景観が保全されたことは大変意義深いことである。このような作品を顕彰することは、これからますます重要になってくるだろう。


審査委員長 吉村 篤一




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